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うりいえ話。

最寄り駅に着いたときは、もう暗くなっていた。

昼は暑さ厳しいけれど、吹き渡る風はもう真夏のものではない。暗闇がヒンヤリ湿り気を含んで、虫の声がそこここに聞こえる。

飲みに行くことも無くなって、この時刻に出歩くのも久しぶりだ。

夜遊び気分で、家までの道を歩く。

街路樹が吐き出す夜気に混じって、どこからか、木の香が漂ってきた。

樹木ではない。木材の、それも古い材の匂いだ。

ああ、あそこかな…

なんとなく心当たりがあった。

初夏に泡立つように咲く、ツツジの垣のある家。

数年前まで住民がいたが、いつの間にかガレージに車が無くなった。

溜まったチラシがポストから覗くようになって、玄関先に雑草が生えはじめたと思ったら、売家の看板が貼り出された。

この辺りは開発から20年ほどが経ち、建替えや取壊しが目立つ。

新築のころは働き盛りだった住民も、高齢になって同じように暮らしていくのは難しいのだろう。

建替えになるのはまだいいほうだ。

スクラップアンドビルド、などというが、スクラップアンドそのままとなることも多い。

区画された住宅地に、歯抜けのように増えていく空き地。

あの豪奢なツツジの生垣はどうなっただろう。

見ないで済むなら見たくなくて、いつもは曲がらない角を、曲がった。

つつじのいえ



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ごきんじょ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/08/28 11:30
コメント
No title
高齢化で空き家が増えているようですね。
主がいなくなったつつじどうなるんでしょうね~
夜は見えない分、
匂いの情報が際立ちますね。

主人の実家も更地にしましたし、
空き地は歯がぬけるように増えました。

賑わっていた記憶があると
物悲しいよのですよね。

No title
売り家の看板を見ると、なんかせつなくなります。
勝手に『あの幸せそうな家族が・・・』って別に引っ越しするから不幸ってイコールじゃないんやけど、寂しさを感じます。すぐに建て替えるならそうならないけど。
いっせいに建ったような住宅地では、よけいにそう思うかもしれませんね。
Re: No title
Carlos様

負動産なんて言葉も生まれているらしいですね。

なんだか、せつないです。
Re: タイトルなし
うさきち様

うちの実家も、似たような住宅地なんです。

高齢化で自治会やゴミ当番など、困りごとが増えて、この先どうなるのか不安です。
Re: No title
レツゴ―一匹様

高く売れて、もっと豪邸に引っ越すならおめでたいですけど、なかなかそうはいかないでしょうね。


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