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オバサン本。

最初に持ち帰ったのは、イモートだったと思う。

やせっぽちのオバサンが描かれた表紙の、タイトルは「ハリスおばさんパリへ行く」

はりすおばさんぱりへいく

生真面目な優等生だったその頃の私なら、たぶん選ばなかった、おかしげな挿絵。

子供部屋に放り出してあったその本を手に取ったのは、ただ読むものが無かったからだ。

ロンドンに住む、掃除婦のハリスおばさん。

掃除に通う上流婦人の部屋で、はじめて目にしたディオールのドレスに心を奪われる。

それから、実に3年。働きづめに働き、つましい暮らしをさらに詰めたうえに、幸運も重なって、ついに彼女はパリのディオールの店の前に立つ。

ひと目で下層階級とわかる、美しくも若くもないおばさん。モードの最先端にはあまりにも場違いで、読んでいるこちらまでが恥ずかしくなる。

とうぜん、出会った誰もかれも、はじめは彼女に冷たく当たった。

しかし、その正直さ、まっすぐな情熱、さらには強靭な人生哲学に打たれ、やがてハリスおばさんを味方してやるようになるのだ。

思いがけず手にした夢の時間と、海の泡のような美しいドレス

シワシワのおばさんがそれをまとった姿は、想像の中とはいえ、いささかグロテスクではあるが、同時に勇気が湧く。

人はいくつになっても夢を持ち、いくつになってもそれを実現できるのだ。

著者は、夢を夢で終わらせず、ほろ苦い幕切れも準備していた。小学生の私がどこまで理解できたかは、わからない。

いま、正真正銘のオバサンになっても、心のどこかに希望を抱いて生きていられるのは、遠い昔のハリスおばさんのおかげが、少しはあるかもしれない。

じぇにぃ
(猫の日に際し、同じ著者の切なく美しい猫のお話「ジェニィ」もご紹介します)



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ブックガイド | コメント(8) | トラックバック(0) | 2022/02/22 11:30
コメント
No title
私もこの話好きなんです、シリーズありますが、パリ編が一番好きです。

最初にポール・ギャリコの本を読んだのは、最後にあったジェニィの本なんです。

今、手に入らないかもしれませんが、『マチルダ ボクシング・カンガルーの冒険』ってのが面白いです。
No title
そうですね。
まだまだ夢を持ち続けましょう。
何かきっと素晴らしいことがあると思って・・・
NHKの日曜美術館で
塔本シスコさんという女性が、50歳を越えてから、しかも脳梗塞、娘さんの死を乗り越えて絵を独学で描いたっていうのを観ました。

その絵が天真爛漫、エネルギーに満ち溢れて素晴らしい。なんかガツンとやられました。

私もがんばる(笑)

No title
ハリスおばさん、早速検索しました。
同業者ということもあり、とても興味深かったのですが、取り敢えず安価な『ジェニィ』をポチりました(;^_^A
Re: No title
レツゴ―一匹様

私の記憶にはパリしか残ってないんですが、いろんなとこに行ってはるみたいですね(笑)。

あらためて読み返してみたいなと思います。
Re: No title
Carlos様

ほんとにそうですね。

楽しい夢のおはなしまたお聞かせください。
Re: タイトルなし
うさきち様

ステキなお話ですね!

塔本さん、調べてみたいと思います。
Re: No title
りりた様

ああ、そうだ!りりたさんもCleaning ladyなんですね!

英国では普通のご家庭で毎週とか隔週、お掃除を頼んでる方が多くて、ハリスおばさんのような人が来てくれます。

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