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ヘチマノ本。

病人の看護が苦手である。

子供が小さい時は面倒も見たが、大人の男の看病なんて、想像するだけでもウンザリだ。つくづく離婚しておいてよかった。

そんな私が、なぜかこの本は読んでしまう。

ぎょうがまんろく
(「仰臥漫録」正岡子規著 岩波文庫)

「仰臥漫録」の書名の通り、仰向けのまま寝返りもうてない重病人でありながら、その感受性には曇りなく、筆を執ることを忘れない。

驚くべきは著者の食欲。例えば明治34年の今日、9月19日には

朝飯 粥三碗
午飯 冷飯三碗 鰹さしみ 味噌汁さつまいも 佃煮 奈良漬 梨一つ 葡萄一房
間食 牛乳五勺ココア入り 菓子パン 塩煎餅 飴一つ 渋茶
晩飯 粥三碗 泥鰌鍋 キャベツ ポテトー 奈良漬 梅干し 梨一つ


付き添う妹と母は、これだけの食事を用意し、看病に心を配っても、絶えず不満を言われ、激しく当たり散らされている。

文学史に偉大な足跡を残した子規であるが、じつに難儀な病人である。

私だったらやってられねえと思ってしまう。

考えてみれば、40にならない若造なのだ。

夏目漱石や秋山真之ら、友人が各々の分野で活躍する中、自分ひとり病床から離れられない現状への苛立ち、意に任せぬ身体に対する怒り。

その鬱憤を、彼は母に妹に、いっさいの遠慮なくぶつけている。

それは甘えであり、血縁への安心であるだろう。

怒号に身を縮めるわが母、わが妹の眼の中に、死にゆく己への憐みの色を見て、病んだ胸をさらに苦しめる日もあったろう。

痰一斗糸瓜の水も間にあはず

子規の忌日を、糸瓜忌と呼ぶ。



子規没後120年に際し、2018年9月19日の記事に加筆再掲いたします。



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ブックガイド | コメント(6) | トラックバック(0) | 2022/09/19 11:30
コメント
No title
誰でも看病するのは大変でしょうね。
幸い看病することはありませんでしたが、これから看病される身になるかもしれません。
迷惑を掛けたくありませんが・・
NHKのドラマ「坂の上の雲」で、最近お騒がせの俳優が演じてましたね。今思えば
わりと似てるかも?

世に名を残す人って、結構ハチャメチャで迷惑な人が多いような。だからこそおもしろいんでしょうね。
No title
子規は、、、めっちゃ面倒なおっさん、ですけど早世で、その短い人生の中で、がっつり詠んだってのがすごい人ですね。この本を読んでると、よく食うなぁ、という感想と共に、よく家族付き合ったよね、っという感嘆がやってきます。
Re: No title
Carlos様

子規は若くして死病に取りつかれていたので、荒れるのは仕方ないかもしれません。

私もいい病人になるように気をつけようとは思ってます(無理かも)
Re: タイトルなし
うさきち様

息子の友だちに、親御さんがファンで、あの小説の人物にちなんだ名前の子がいました。

さねちゃんなんて呼ばれていてかわいかったなァ。
Re: No title
TORU様

坊主のオッサンと思っていたら、気がつくと息子といってもおかしくない年齢なんですよね。

息子が重い病気だったら悲しいだろうなァ。お母さんの気持ちになってます。

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