もちゅうの話。
とってきた郵便物の束を、テーブルにポイと投げたら、薄紫のハガキがはらりと落ちた。
喪中欠礼の知らせだ。
連名の差出人を見て、誰だか一瞬迷ったが
ああ釘煮ババア!死んだのかァ…
幼馴染のユキちゃんの嫁ぎ先は、阪神間の旧家。
傍目には玉の輿でも、いまだバリバリ現役の舅姑と同居の結婚生活は、苦労の連続だった。
結婚式の翌日に、古びたガマグチを渡し
今日からよろしくね
言い放ったシュートメは、それ以来家事に一切手を出さず、若い嫁が右往左往するのを、しんねり背後から見つめているだけだった。
自営業で、家族は3食を家で摂る。たまに出かけるといっても、プイと出るわけにはいかない。
留守中の、家族全員の昼食を準備したうえ
どこの誰に会ってきたの
帰宅後の、シュートメチェックが待っていた。
例外は、春先に郷土食イカナゴの釘煮を作るとき。
専用のデカい鍋を引っぱり出し、10キロ以上の新物のイカナゴを煮るについては、シュートメはユキちゃんに、いっさい手出しを許さなかった。
泣いた後とわかる鼻声で、電話をかけてきた彼女が、義母を釘煮ババアと呼ぶ(→くぎにの話。)のを、うんうんと聞いた。
時は流れ、初々しい若妻も、次第に自信に満ちた中年の主婦に成長する。
ユキちゃんは、言われたイヤミにイヤミで返すほどの、ふてぶてしいオバサンになり、愚痴の電話もしだいに間遠になっていった。
ここ数年は会うこともなくなって
そうかあ…
いま、釘煮ババアの逝去の報を、恐竜の絶滅を知るような気持で眺める。


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喪中欠礼の知らせだ。
連名の差出人を見て、誰だか一瞬迷ったが
ああ釘煮ババア!死んだのかァ…
幼馴染のユキちゃんの嫁ぎ先は、阪神間の旧家。
傍目には玉の輿でも、いまだバリバリ現役の舅姑と同居の結婚生活は、苦労の連続だった。
結婚式の翌日に、古びたガマグチを渡し
今日からよろしくね
言い放ったシュートメは、それ以来家事に一切手を出さず、若い嫁が右往左往するのを、しんねり背後から見つめているだけだった。
自営業で、家族は3食を家で摂る。たまに出かけるといっても、プイと出るわけにはいかない。
留守中の、家族全員の昼食を準備したうえ
どこの誰に会ってきたの
帰宅後の、シュートメチェックが待っていた。
例外は、春先に郷土食イカナゴの釘煮を作るとき。
専用のデカい鍋を引っぱり出し、10キロ以上の新物のイカナゴを煮るについては、シュートメはユキちゃんに、いっさい手出しを許さなかった。
泣いた後とわかる鼻声で、電話をかけてきた彼女が、義母を釘煮ババアと呼ぶ(→くぎにの話。)のを、うんうんと聞いた。
時は流れ、初々しい若妻も、次第に自信に満ちた中年の主婦に成長する。
ユキちゃんは、言われたイヤミにイヤミで返すほどの、ふてぶてしいオバサンになり、愚痴の電話もしだいに間遠になっていった。
ここ数年は会うこともなくなって
そうかあ…
いま、釘煮ババアの逝去の報を、恐竜の絶滅を知るような気持で眺める。


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お荷物が減ってホッとしているんじゃないでしょうか。
どんなに家事をやらない姑も、これだけは必ず自分で作ることでプライドが保たれるんでしょうね。
そうやって受け継がれてきた食習慣も各地であるんでしょうね。
同い年ですから彼女も間もなく還暦ですね。
お荷物は気の毒ですが、お年に不足はありませんし、大往生ではないでしょうか。
釘煮の味は無事友人に引き継がれているようです。
ただ新型ウィルスと、材料のイカナゴの高騰で、いただけない年が続いています。