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やまとの話。

手伝ってほしいことがあるんだけど

ある日学校が引けた後、カナエちゃんが言うので、ついて行った。

はじまっちゃう!ちょっと急いで!

小走りに稲刈りの済んだ田んぼを抜けて、着いたのはカナエちゃんのお家。

前に来た時は、ナカジマミユキのモノマネをやらされた( →みゆきの話。)。

今度は何をさせられるのだろうと警戒していると、テレビのあるリビングルームに通され

ハイこれ

いきなり手渡されたのはカメラだった。

彼女自身ももう1台カメラを手に、あわただしくテレビを点け、チャンネルを回す。

暗い夜空らしき映像。伴奏無しの静かな画面から、ゆっくりと男性の歌声が流れ出す。

…♪ さらば~ ちきゅうよ~ ♪

なに?何がはじまったの?

ヤマト!いいから撮って!コダイくんが映ったら、撮って!

…♪ちゅ~うせんかんや~ ま~ と~

え?え?

当惑する私をよそに、ブラウン管にカメラを向け、バシャバシャとシャッターを切りはじめる。

夕方の再放送の時間。流れていたのは、宇宙もののアニメだった。

お揃いのジャンプスーツを着た登場人物が、みんなでどこか遠くに行くようだ。

中の1人、コダイくんらしき若者がアップになると、カナエちゃんはキャーキャー騒ぐ。

促されて、初めて触るカメラを壊さないよう、おそるおそる何度も、シャッターを切った。

長かった30分。

24枚撮りのフィルムが終わったカメラを渡すと

アリガト

カナエちゃんはニコニコして受け取った。

彼女はこのマンガの主人公が好きで、ブロマイドが欲しかったのだが手に入らない。

テレビを写真に撮ってみても、上手くシャッターチャンスをとらえることは難しかった。

そこで、1人よりは2人、と、私が呼ばれたわけである。

私の写真に満足したのか、それとも壊滅的な出来に匙を投げたのか、以後カナエちゃんに呼ばれることはなかった。

ホームビデオ普及以前、昔むかしの話である。

うちゅうせんかん
(浮かんでいる女が誰なのかいまだに分からない)



作者松本零士氏の訃報に接し、2018年11月26日の記事を再掲載いたします。



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てれびじょん | コメント(6) | トラックバック(0) | 2023/02/21 11:30
コメント
No title
テレビに向かって、ラジカセとかマイクをかまえて、録音してたのは、昭和の風景ですね。
姉が、近所の子供らと、『ヤマトクラブ』と称する集まりをやってました。何をしてたか興味がない私は知りませんが、その中のお父さんが大きなプラモデルを組み立てていて、トロフィーのようにあがめてたのは覚えてます。

朝の公共放送で、フリップの画面を、後から調べるのが面倒で、スマホのカメラで撮ってしまいますが、これも昭和の子供だった名残りでしょうか。
ぢょんさん、結局アニメを観てないんですね? 私はそれなりに楽しんで観てました。

意外だったのは、全くアニメには興味のない父が主題歌にはまって、「ええ歌や~」と言ってアルバムまで買ってたことです。

でも松本零士の漫画に出てくる、あの手の美女は、男の理想が過ぎると思ってたのはナイショです(笑)
No title
うちの子供たちも真剣に見てました。
懐かしい思い出ですね。

Re: No title
レツゴ―一匹様

お姉さんすごい!ファンはたくさんいましたが、クラブで活動していた人は知りません。

SNS以前にその組織力はたいしたもんですね。
Re: タイトルなし
うさきち様

いや、そんなに熱心じゃないけど、友だちがワイワイいうので見ましたよ。ただ「あんな遠く行く以前になんか他に方法ないんか」と思っていたことはファンの皆さんには内緒です。

例のまつ毛過剰な美女に関しては同感です。
Re: No title
Carlos様

あの時代の社会現象のようなアニメーションでしたね。

懐かしいです。

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