fc2ブログ

こうべの話。

カガさん一家があの日あそこにいたと知ったのは、知り合ってしばらく経ってからだった。

うちのムスメとカガさんのマリちゃんは小学校の同級生。

細面の美少女マリちゃんと、ぷっくり丸顔のムスメが、赤いランドセルを背負い、並んで登下校する様子はとてもかわいらしい。

母親同士もすぐに打ち解けてお友達になった。

ええっ?カガさん、神戸にいたの?

そうよ、ここに来る前、マリコが赤ちゃんの時ね…

カガさんとご主人は九州出身だが、転勤族でそれまでも全国の社宅をあちこちしていた。

夏に生まれたマリちゃんを、郷里のご両親に見せようと、お正月に帰省して戻ってほどなく、あの震災に遭った。

じゃあ、大変だったんじゃないの?

うん… そうなんだけど…

家財は床にぶちまけられ、水が出ず、電気がつかず、不安で母乳がとまった。

カガさんご夫妻はマリちゃんの健康を考えて、徒歩で脱出した。

小さいマリちゃんをおんぶして、朝早くから丸一日歩いて、大阪吹田の親戚の家まで。

私、覚えてないのよね…

え?道を?

違うの… 震災の日… 三日くらい、記憶がないの…

マリちゃんを中に夫婦肩を寄せ、眠らず過ごした夜。

線路伝いに40キロ以上、ほこりだらけになって歩いたこと。

少し落ち着いてから、気づけばなにも思い出せないのだという。

マリコにも時々聞かれるんだけどね、「パパに聞きなさい」って… ハハハ… 変でしょ?

カガさんは、屈託ないきれいな笑顔を見せた。

震災の記憶を風化させるな、などと言われるけれど。

フィルムに残った記憶の陰には、恐ろしすぎて、つらすぎて、忘れられた無数の記憶がある。

あれから、21年。

117のつどい



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

スポンサーサイト



ごきんじょ | コメント(8) | トラックバック(0) | 2016/01/17 11:33
コメント
No title
こんばんは

あれからもう21年も経ったんですね~
あの映像をテレビで見た時は、ショックを受けました。
人間は、ショックが大きいと、脳はその記憶を忘れようとするらしいんです。
カガさんもきっとそんな状態だったんではないでしょうか。
No title
でんばあさんも、この地震の時は神戸だったのですね?
以前、小さい子供を守って、、と言うようなことを書いておられましたね。

いつも、お嬢さんが登場すると・・ああ、あの時の赤ちゃんね、って思っていました。
私の中では、お嬢さんの成長と、地震の経過がダブっていました。
子供さん達と、逞しく生きて来られましたね。
人は極限状態に
身を置くと記憶がなくなることがあるようです。

無くなった方がいいから無くなるのかそうじゃないのかは分かりませんが、実際に記憶がなくなることがあるようです。

緊急時には脳が記憶に関する回路を一旦停止させ、状況判断回路をフル稼働させるのではないでしょうか?

死者6,434名、行方不明者3名、負傷者43,792名の事実を前にすると言葉を失くします。

亡くなられた方に合掌。
Re: No title
Carlos様

私はあの時新生児がいたので早朝ですが起きていました。

だんだん明るくなっていく中、テレビに映る映像が信じられなくて、でも目を離せなかったです。
Re: No title
アイハートブレイン様

うちは近畿地方ですが、神戸ではなくて、強い揺れは感じたのですが、被害はなかった地域なんです。紛らわしい書き方をしまして、ごめんなさい。

去年の記事を覚えていてくださったんですね。ありがとうございます。

身内は兵庫県在住が多く、何人かはうちの実家に避難してきました。祖父母は施設に入居していて安全でしたが、母の実家にも被害がありました。

娘の誕生日が来るたび、同じ年月だなあと思います。
Re: 人は極限状態に
rockin'様

赤ちゃんを抱えた彼女には、怖かったことは忘れてしまわなければ、という防御本能が、とくに強く働いたのかもしれませんね。

そのおかげでお嬢さんを元気に育てることができたのでしょう。

本能が母と子を守ってくれたのかな。
No title
こんにちはv-22

主人の義弟の妹が神戸に
お嫁に行って 丁度 家を二世帯に
建て替えて 地震があったんです。
だから人は平気でしたが 中は滅茶苦茶で
義妹と娘はずっと東京に戻っていました。
ガスや水道が復旧しなくて大変だったと
話してました。

21年も経ったんですよね・・。
3.11からも5年です。
悲しみって簡単に忘れないですよね。

関東も地震大丈夫かなと
気になります。
Re: No title
800びくに様

そんなことがあったんですか。

うちは幸い身内にはけが人なども出なかったのですが、近い知り合いにはご自宅が全壊の方、お身内をなくした方、つらいお話がたくさんあります。

忘れられるつらいことは、まだ本当につらいことではないのかもしれませんね。

管理者のみに表示