あくむの話。

警察に追われ、夜陰に紛れて逃亡中の私。

森の中を逃げ回り、偶然見つけた枯れ井戸に隠れて、身を縮め、息を潜めている。

子供を持ち、平凡な日常の中、忘れかけていたが、実は過去に重罪を犯していたのである。

それが、ひょんなことから露見して、こうして追われる身になってしまった。

やはり罪が許されることはないのだ、と思い知らされると同時に、なぜあんな悪事をしてしまったのか、悔恨の念が鋭い痛みをもって胸を噛む。

追手の叫び声が、木々にこだましながら、次第に近づいてくる。

もうダメだ…

そう思った時、目が覚めた。布団が厚すぎたせいか、びっしょりと汗をかいている。

窓の外はまだ暗く、さっきまで隠れていた森のなかと、地続きみたいだ。頬を寄せた井戸の筒の、ひんやりしたコンクリートの感触まで、生々しく覚えている。

あまりにもリアルで、夢とは思えない。

起きたあともしばらく、自分にはとんでもない過去の重罪がある気がする。

コーヒーを淹れ、ムスコの弁当を詰めながら、自分の過去を、人生を、反芻するように考えた。

だんだん頭がはっきりしてきて、どうやら大丈夫なようだ、と安心したところに、ムスコがのっそり起きてきた。

あのさ、もし犯罪を犯したら、逃げ隠れしないで、さっさと白状したほうがいいと思うよ！

息せき切ってそう言うと、

何だよ、いきなり、朝っぱらから…

ムスコは驚いているが、私は大マジメである。






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