すけっち話。
納戸の片付けをしていたら、古いスケッチブックを見つけた。
かなり大判だが、クローゼットの壁際に沿うように立てかけてあったので気づかなかったのだ。
表紙を見ると、離婚する前の姓が書かれていて、ドキッとする。
絵画教室に通っていた時のものだ。
子供の生まれる前、家にいてヒマな私は習い事をした。
好きだった仕事を夫の転勤で辞め、家族も友達もいない、知らない町に来て一人の私は、人と会うことに飢えていたのだと思う。
いろいろと手を出した中でも、絵を描くのは楽しくて、飽きずに通った。
転勤でまた去ることになったが、それまではかなり熱心に打ち込んで、それなりに描けたから、このスケッチブックも捨てずに置いたのだろう。
懐かしくて、パラパラとめくってみた。
果物、人形、コーヒー挽き、空き瓶に活けた花など、ありきたりの静物デッサンが、マジメにやってある。
けっこううまいじゃん、と、笑顔になりかけた表情が、あるところでぴたりと凍り付いたのが、自分でもわかった。
小さすぎる椅子に、半分あっちを向いて腰かけ、短パンを穿いた裸足の脚を組んでいる男。
別れた亭主である。
すっかり忘れていたが、休みで家にいる亭主にモデルを頼んだこともあったのだろう。
顔はあちらを向いていて見えないが、骨格や体つきなど、特徴をとらえてうまく描いてある。
6Bの鉛筆でまるで撫でるように、こんなに丁寧に、あの男を見ていたこともあったのだ。
あとわずか数年のあいだに、ムスメが生まれムスコが生まれ、あげく憎み合って、この同じ男と別れることになるとは。
スケッチブックを膝にのせ、夫の肩から背中の線を何度も描き直している女も。
窮屈な椅子の中で、妻のためにじっと我慢してやる男も。
絵の中では、この先何が起こるのか予想もせず、同じ夏の日の風に吹かれている。
あのころ住んだ町には、あれから一度も行かない。


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かなり大判だが、クローゼットの壁際に沿うように立てかけてあったので気づかなかったのだ。
表紙を見ると、離婚する前の姓が書かれていて、ドキッとする。
絵画教室に通っていた時のものだ。
子供の生まれる前、家にいてヒマな私は習い事をした。
好きだった仕事を夫の転勤で辞め、家族も友達もいない、知らない町に来て一人の私は、人と会うことに飢えていたのだと思う。
いろいろと手を出した中でも、絵を描くのは楽しくて、飽きずに通った。
転勤でまた去ることになったが、それまではかなり熱心に打ち込んで、それなりに描けたから、このスケッチブックも捨てずに置いたのだろう。
懐かしくて、パラパラとめくってみた。
果物、人形、コーヒー挽き、空き瓶に活けた花など、ありきたりの静物デッサンが、マジメにやってある。
けっこううまいじゃん、と、笑顔になりかけた表情が、あるところでぴたりと凍り付いたのが、自分でもわかった。
小さすぎる椅子に、半分あっちを向いて腰かけ、短パンを穿いた裸足の脚を組んでいる男。
別れた亭主である。
すっかり忘れていたが、休みで家にいる亭主にモデルを頼んだこともあったのだろう。
顔はあちらを向いていて見えないが、骨格や体つきなど、特徴をとらえてうまく描いてある。
6Bの鉛筆でまるで撫でるように、こんなに丁寧に、あの男を見ていたこともあったのだ。
あとわずか数年のあいだに、ムスメが生まれムスコが生まれ、あげく憎み合って、この同じ男と別れることになるとは。
スケッチブックを膝にのせ、夫の肩から背中の線を何度も描き直している女も。
窮屈な椅子の中で、妻のためにじっと我慢してやる男も。
絵の中では、この先何が起こるのか予想もせず、同じ夏の日の風に吹かれている。
あのころ住んだ町には、あれから一度も行かない。


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絵を描いていたんですか~
見てみたいです。
別れたご主人の絵も・・・・
いろいろ楽しいこともあったでしょうね・・・
絵を見ていきなり年月が引き戻された感じですね。
走馬灯のように・・・
良いこと 悪いこと
楽しい事 かなしいこと
でも いちいち覚えていないから
また生きていけるんだなぁー
って つくづく思います。
今年 還暦になりました。
私も仕事柄、沢山のアイデアノートを残していますが、開くと温度や空気、音が流れ出てくるんだろうなぁ。
すばらしい感覚をありがとう。
たったこれだけの話に、私にはちゃんと風景が見えて、若い頃の(元夫婦)の顔まで浮かんでくるわ。
でんばあさんは、画家でもなく、(片づけや←先日のアルバム製作代行業)でもなく、【作家】なんだわ。。。
憎しみはいつまでも続くものではありませんよ。
どんな御主人だったのかはわかりませんが
アメリカで別れた夫婦が60年後に再会して
もう一度結婚したという話があります。
人生を積み重ねて行くとお互いに成長するものです。
今はそんなことは絶対にない!と言い切れるかもしれませんが
遠い将来の二人の再会も見てみたい気持ちも・・・・(笑)
形状と感情の記録と記憶です。
周囲から隔絶された。
ぢょん でんばあ様、今もスケッチしておられますか?
その時は描けない、描けないと思ってましたが、今見たら結構うまくって(自画自賛)また描こうかな、とちょっと思いました。
イヤイヤお目にかけるほどのものではないですけどね。絵は美術館でご覧くださいませ。
心の底では忘れてないけど、思い出さないで生きていくことはできますよね。
私は還暦まで少し間がありますけれども、昔よりは何事も受け止めやすくなった気がします。
ロマンティックなコメントありがとうございます。
実際はそうそう美しい思い出ばかりじゃないですけれども、文章の中だけでもそう見えたのなら、良かったと思います。
手軽に写真の撮れる時代になりましたが、筆跡、アウトライン、手描きでなければ伝わらないものもありますよね。
手を動かすことを忘れたくないなと思います。
いやいや~お恥ずかしい、ほめ過ぎですよー!
でも嬉しかったです。書いてよかった。ありがとうございます。
うーんどうでしょう。
私も今ではノンキにやってますが、黒い気持ちは心の底に沈んで、表には見えなくてもそうそうなくなるものではないと思います。
アメリカのそのご夫婦はとても珍しいからニュースになったわけで…。
元亭主は不貞行為の相手とよろしくやっていますので、まあ、さぞかし成長していることでしょうね(苦笑)。
絵を描こうとして描くことは減りましたが、仕事で人に説明したりするとき、図解すると分かりやすい!と言われますね。
そういう意味では元が取れてるのかな(笑)。