FC2ブログ

わすれな話。

ある日、中学校からの帰り道。

私は、自分の右側を意識しながら、ドッキドキで歩いていた。

理科が得意で、足が速くて、メガネがカッコいいフジモリ君と、帰りが一緒になったのだ。

恥ずかしくてその場から駆けだしたいような、それでいてこの時間がずっと続いてほしいような。

ほんの数分が、永遠に思われた。

バカな子と思われたくなくて、何を話していいか迷っていると、道の脇に、空色の小さな花。

あ、ワスレナグサ

つい、乙女チックな言葉を口にのぼせた。

ところが、フジモリ君は、メガネをこめかみに押し上げながら

違うよ

やけにキッパリ言うではないか。

チガウよ、これはキュウリグサ!

ステキなフジモリ君は、生物部なのであった。

その後何を話したか、サッパリ思い出せない。

キュウリグサの名の由来は、葉を揉むとキュウリに似たニオイがすることから。

花言葉は、「愛しい人への真実の愛」、だそうである。

きゅうりぐさ
(Trigonotis peduncularis ムラサキ科キュウリグサ属)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

むかしむかし | コメント(14) | トラックバック(0) | 2021/04/07 11:30

ぷれはぶ話。

工事中の土地に通りかかった。

囲いの向こうを覗いてみると、予想したような骨組み状態ではなく、すでに立派な白亜の殿堂が建ち上がっているではないか。

先週通った時には確かまだ更地だったから、驚くべきスピードである。

プレハブか!

思わずつぶやく。

プレハブなんて、久しぶりに口にしたなア。

私の通った小学校は、ドーナツ化現象で、人口が急増した地域にあった。

同級生は500人と、予想された人数を大幅に超過して、校舎が足りない。そこで、グラウンドの一角に建ったのがプレハブ校舎である。

新入生は1組、2組と、順に従来の校舎に入り、はみ出したクラスが、プレハブに収まった。

昔のことで、空調もない。水道も、ご不浄も、給食室も、砂塵渦巻くグラウンドを横切って行かねばならない。

プレハブ校舎は、過酷な環境であった。

私はどういうわけか、10組だの、11組だの、はみ出しクラスになることが多かったので

1組いいなあ…

急作りのサッシの窓越しに、鉄筋コンクリートの校舎を見上げたものだ。

思い出しながら歩いて、駅に着いたら、新学期の定期券を買う、行列ができている。

この子たちは プレハブにはみ出したりしないんだろな 少子化も いいことあるじゃん

にぎやかな学生の列を避けて、改札に進んだ。

ぷれはぶこうしゃ
(壁がバツになってるのがなんだかイヤだった)



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

むかしむかし | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/04/06 11:30

くつひも話。

バスに乗るのをよして、なるたけ歩くようにしているので、スニーカーを履く機会が増えた。

軽い靴でスイスイ歩けば、気分もめいて。

時間を気にしながら、早足になりかけたら、信号のある交差点で止まった。

足元を見降ろして、あっ、クツヒモが解けかけてる、と、しゃがもうとした瞬間

あおしんごう

信号がに変わったので、つい、そのまま歩きだしてしまった。

なにもない道の真ん中では、立ち止まる気になれないのは、なぜだろう?

次の信号で結び直そう…

しかし次の交差点は、青になったばかりだった。歩調をゆるめることなく、横断歩道を渡る。

次の信号では かならず…

重なる時は重なるもので、次の信号も

歩みにつれてほぐれていくクツヒモが、足の甲をぴたん、ぴたんと打つ。

次の信号では…

あにはからんや、というか、あんのじょうというか、次の交差点もまた、ではないか。

クツヒモはもはや、完全にほどけている。

なんだかおかしくて、クツヒモを踏まぬよう、足を大きく出し、どんどん歩く。

目的地のほんの目の前になって、やっと歩行者信号が赤く光ったときは、思わずマスクの中で、クククと声を出して、笑ってしまった。

やっとしゃがんだ路上は、昨日の雨に濡れて、桜の花びらが小さい人の足跡のように、てんてんと散っている。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

もろもろ | コメント(4) | トラックバック(0) | 2021/04/05 11:30

はなちる話。

曇天で明けた日曜日、午後からは雨の予報。

これで桜も終わりかな…

ホッとついたタメイキが、落胆ではなく安堵であることに気づいて、ちょっとショックだった。

これまでにも、晴れた週末には人出を案じたりしていたが、花見に繰り出す人々の姿に、危うさを感じたこの1週間、危惧は現実となった。

花が終われば、花見はできない。

花が終われば、花に浮かされて、フワフワ外出する人もなくなる。

そういう考えかたは否めないけれど、早く桜が散ればいい、なんて思うことに、罪悪感にも似た、後味の悪さを覚える。

桜は悪くない。

桜を見たくなる、人の気持も悪くない。

そう思うとなんだかやりきれない。

どうすればいいのか、誰にも分からないんなら、天が決めてくれるといいのに。

知恵のない凡夫の他力本願である。

いっそ大雨になれ

そう念じて窓を開ければ、汚れた脱脂綿のような雲は、今にもしずくが垂れそうに湿って、

…ところにより 雷をともなう 激しい雨になるでしょう…

点けっぱなしのテレビからは天気予報。

ファサッと頭上をよぎる影に驚いて見あげたら、カラスが1羽。雨を避けて山に帰るのだろうか。

それはまるで、私の黒い気持のようだった。

はなにあめ



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

もろもろ | コメント(6) | トラックバック(0) | 2021/04/04 11:30

ぶーつの話。

衣更えは終盤、靴の入替におよぶ。

モコモコした厚い冬靴をしまい、軽快なサンダルを出すのだ。

ブーツに湿気取りを詰めながら、何年も前に捨てた別のブーツを思い出した。

それはキャメルの、ムートンのブーツ。

むーとんぶーつ

亡くなった父の、最後の入院は冬だった。

お医者さまにも、家族にも、もう何もできることはなくて、弱っていく病人を、ベッドの横でただ見ている日々。

じっと座る病室は、暖房してあるはずなのに、足元からじくじく冷えがのぼってくる。

薄い靴では居られなくて、ブーツを履いて行くようになった。

看病でもお見舞いでもなく、次第に起きている時間が短くなる父のそばで、ただブーツのつま先を見降ろしていた、ふがいない娘である。

葬儀を終えて久しぶりに自宅に帰り、玄関で黒い靴を脱ごうとした時、キャメルのブーツを見て、うっと胸が詰まった。

好きで買ったし、安くはなかったし、まだどこも傷んではいない。

それでも、どうしても履けなくて、ゲタバコの隅にあるのもつらくて、思い切って処分したのだ。

あれももう、何年も前のことである。

チクリと痛いブーツの季節が、今年も終わった。



にほんブログ村 その他生活ブログ ちょっといい話へ
にほんブログ村


日記・雑談ランキング

ごかぞく | コメント(8) | トラックバック(0) | 2021/04/03 11:30
« Prev | HOME | Next »